メンバーの成長を支援するためにEMがすべきこと—コルブの経験学習論から考える

2026/03/22

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経験しているのに、なぜ成長が止まるのか

メンバーに仕事を任せている。難しい課題にも取り組んでもらっている。それなのに、なぜか成長している実感が薄い。そんなモヤモヤを抱えたことはないだろうか。

原因のひとつは、経験の量ではなく経験の質にある。正確にいえば、経験をどう処理しているかだ。 仕事をこなすだけでは、人は思ったほど成長しない。経験から学ぶには、振り返り、意味を引き出し、次の行動に変えるというサイクルが必要になる。このサイクルがなければ、どれだけ多くの経験を積んでも、それは記録として積み上がるだけで、力にはなりにくい。

コルブの経験学習論とは

この考え方を体系化したのが、教育心理学者デイヴィッド・コルブが1984年に提唱した経験学習論だ。コルブは、人が経験から学ぶプロセスを4つのステージとして示した。

最初のステージは具体的経験(Concrete Experience)で、実際に何かをやってみることだ。次に内省的観察(Reflective Observation)、起きたことを立ち止まって振り返り、観察する段階になる。そこから抽象的概念化(Abstract Conceptualization)へと進む。振り返りを通じて得た気づきを、次にも使える教訓や原則として言語化するフェーズだ。最後が能動的実験(Active Experimentation)で、概念化した学びを実際の行動に落とし込んで試してみる。

この4つが繰り返されることで、経験が本当の意味で力に変わる。コルブはこれを経験学習サイクルと呼んだ。

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サイクルはどこかで止まっている

重要なのは、このサイクルは自然には回らないという点だ。 多くの現場では、具体的経験まではある。仕事は日々発生するし、難しい課題だって降ってくる。しかし内省が浅い、あるいはほとんどない、というケースが多い。チームの振り返りや1on1はあっても、何が起きたかを確認するだけで終わっていたり、振り返りが表面的なままだったりする。また、内省まではできていても、概念化で詰まることもある。感想や感情の言語化はできても、それを次の場面で使える原則として抽出できていない状態だ。せっかく気づきを得ても、その出来事に固有の話として消費されてしまう。気づきを自分の中で処理して終わらせず、言葉にして場に出すことで、概念化が促される。他者に語るプロセス自体が、学びを整理する力を持っている。能動的実験も油断できない。アクションアイテムを決めたのに、1ヶ月経っても何も試されていないということはよくある。サイクルの最後で止まると、次の経験が学びとして積み上がらない。

EMとして気をつけたいのは、このどこかでサイクルが止まっていないかを意識することだ。

EMの役割は経験の設計者であること

コルブの理論を踏まえると、EMがメンバーの成長を支援するとはどういうことかがより具体的に見えてくる。

単に経験を与えるだけでは不十分だ。内省を促す問いを持つこと、気づきを言語化する場をつくること、学びを次の行動につなぐフォローをすること。これらが揃って初めて、サイクルが機能する。たとえば1on1で何が起きたかを確認するだけでなく、なぜそうなったと思うか、自分の判断をどう評価しているか、次に同じ場面が来たらどうしたいかを問いかける。チームの振り返りの場でも、事象を列挙するだけでなく、その経験から何が言えるかを引き出す。アクションアイテムを決めたら、翌スプリントでどうだったかを必ず確認する。

こうした関わりは、派手ではないし、一回やっただけでは効果がわかりにくい。しかしこれを積み重ねることが、メンバーの経験を本当の成長に変える。経験を与えるだけでなく、経験が力になるまでをサポートすること。そこまでを自分の仕事として引き受ける姿勢が、EMには問われている。

サイクルが回るチームをつくる

個人の成長サイクルが機能し始めると、チームの様子が変わってくる。メンバーが自分の経験から学び、次の行動を自分で考えて試す。うまくいかなければ振り返り、また試す。そのサイクルが個人だけでなくチーム全体で動き始めると、誰かの気づきが誰かの実験になり、実験の結果がまた誰かの内省のきっかけになる。

EMが全員の成長を管理するのではなく、メンバーが相互に学びを引き出し合い、組織全体が自律的に前に進んでいく状態だ。経験学習サイクルを回す支援は、個人の育成にとどまらず、そういうチームをつくる土台になる。

いまのサイクルを点検してみる

経験学習のサイクルは、4つのどこが弱いかによって必要な支援が変わる。メンバーがどのフェーズで止まっているかを確認することが、支援の第一歩になる。 ストレッチな経験が不足しているのか、振り返る習慣がないのか、気づきが言語化されていないのか、行動に転換されていないのか。フェーズを意識するだけで、1on1での関わり方はかなり変わってくるはずだ。


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